細胞競合研究

 細胞競合は、同じ種類の細胞の間で増殖性や遺伝子の発現レベルに差異があった場合、細胞外環境への適応度である”fitness”に基づいて、より高い適合性を示した細胞が”winner” (勝者) 細胞として生き残る現象です。Winner細胞は増殖し、より低い適合性を示した”loser” (敗者) 細胞は上皮構造からの放出や細胞死によって除去されます。この現象は、キイロショウジョウバエ (Drosophila) の "minute" と呼ばれるモザイク変異体で初めて報告されました (文献1)。

 神経上皮をモデルとした細胞競合の研究を行いました。マウスの 神経前駆細胞は上皮に似た構造を作ります。がんを引き起こす遺伝子変異であるRasV12を発現する細胞が、細胞競合を介して 敗者細胞として上皮構造から排除される分子メカニズムを検討しました。RasV12を発現する細胞は、正常細胞と隣接する場合にのみ、SRSF7分子がユビキチン化依存的に分解されます。SRSF7は若年性遺伝子の1つであり、年齢依存的オルタナティブ・スプライシングを担う分子として細胞若年性 (cellular juvenescence) の維持に必須な分子です (文献2)。SRSF7の分解は敗者細胞の増殖抑制を引き起こし、p38 MAPK依存性のアポトーシスを実行して細胞死にいたります。さらに細胞死を実行した細胞は、周囲の神経前駆細胞によって貪食 (ファゴサイトーシス) されることで処理されます (文献3)。

こちらにも記事があります。


文献

1 Minutes: Mutants of Drosophila autonomously affecting cell division rate. Dev Biol, 42, 2, 1975.
2 SRSF7 establishes the juvenile transcriptome through age-dependent alternative splicing in mice. iScience, 23, 3, 2020.
3 Neuroepithelial cell competition triggers loss of cellular juvenescence. Sci Rep, 10, 18044, 2020.

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