少しでもより良い研究者になるために!

英語論文を読み始める人のために・・
最初の研究テーマの決め方
初めて英語論文を書く人のために・・

 

 

英語論文を読み始める人のために・・
 論文英語を読めるようになりたい・・・英語で書かれた論文を読めるようになることは、小説を英語で読むよりずっと簡単です。あきらめずに読み続けることでどんどん長く深く読めるようになります。
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1.最初は良い論文も良くない論文もわからないし、いったい何を伝えたい論文なのか、わかりません。論文には最も読みやすく書かれている部分が2つ、あります。それは「Introductionの初めの段落」と「論文の最後の一文」です。
Introductionの初めとは、明示されていないときもありますがAbstractのあとの本文の書き出しです。普通の論文なら、その論文が関係している学術フィールドの全体や本質を示すような一文で始まります。1段落目は一般的な内容を背景として述べるのですが、初学者も含めてできるだけ広く読んでもらえるように専門用語を用いずに書く傾向があります。英語を書く上でのお手本になるような文章もここに集中する傾向があります。
論文の最後の一文とは、通常Referenceの手前の本文の最終部分ですが、ここで「要するに私たちが言いたかったことは~」という文章を1文で示すことが多いです。この部分をわかりにくく書くといかにも後味が悪いので、最も明快に論文の結論を簡潔に書きます。研究者の本音も出やすいです。ここを読むことで、論文全体で著者たちが主張したかったことが (本当に証明できているかどうかは別にしても) 明示されます。
まずはこの2か所を読みながら好きな論文やおもしろそうな論文を探してみてはいかがでしょうか。

2.語いを増やす・・・最初は一文の中に、意味の自信がもてない単語が1つ、2つありますが、語いが増えればそれを減らすことができます。最初に小説より簡単と述べたのは、必要な語いの少なさに理由があります。論文とは、科学的な事実を端的に述べることが重要で、奥深い単語をチョイスする必要はありません。だから表現に趣向を凝らすことは全くなく、当たり前の言葉が選択されます。必然的に、登場する語いはとても少なくなります。とはいっても最初は慣れないので、私としては大学受験に戻ったつもりで100語程度の単語帳を作って集中的に覚えてみてはと思います。

3.翻訳ソフト・・・日本語への自動翻訳ソフトはプロの研究者でも使っている人もいるので、必要に応じ使って良いと思います。私の学生時代にはすっとんきょうな翻訳しか返ってこなかったので使い物になりませんでした。今も使う習慣はありません。

4.自分の研究テーマと格闘しつつ、読んでいる論文の中身が研究の参考になったり、矛盾したりというように、論文を読むことで自分の研究世界が広がる感覚が得られるときが訪れます。論文を読むおもしろさを知ることができます。研究者の話を伺っていると、何より論文を読んでいるのが楽しかった時期のことをお話しになることも多いです。研究の世界の自由さ (と厳しさ) を知ることができます。

5.ここまで来ると、「自分で論文を書く」フェイズにさしかかってきます。自分で論文を書くときに必要なのは、論文を「精読」した積み重ねです。精読とは、文字通り論文のすみずみまで目を通し、ほぼ一切の曇りもないレベルまで読み解くことです。ラボの抄読会を担当することがよい機会になります。苦労して読んだ論文は研究者としての自分を支えるいしずえとなります。研究者としての論理的防御力を養うことにも直結しますので無駄になりません。

論文を読む~実践編
 研究者として論理を戦わせるための基盤として論文を読む場合、質に加え、量が必要。質、においては対象となる研究領域を詳細に知る過程であり、Review論文を読んで理屈を理解するプロセスになることが多い。量、においては実際の研究事例や焦点となる実験系について、代表的・典型的なケースや最近の事例を含めて知る必要がある。

 

最初の研究テーマの決め方
 大学生や大学院生としてラボを選択するときや加入したラボで研究テーマを探るとき、具体的に何を研究するか決めかねるのが普通だと思います。知識・経験がありませんから具体的にどのような作業になるか知りませんし、どのような選択肢が実際にあるのかわかりません。実際のところ、自分の研究フィールドで「次に何を研究テーマとして設定するか」を決められることは大学院卒業時くらいの目標だと考えています。ではなぜそのような選択を初学者にゆだねるのでしょうか?

実はもし悩めたとしたら、すでに研究research question者として素質があるかも知れません。研究とはセルフ・モチベーションによって進んで行くので、やりたいことがあるという原動力を元にして進んで行ける可能性があるからです。

初学者でも選択を委ねられるのは、それをきっかけに動機づけの方向性に自ら気づいて欲しいから、ということがあります。コンピュータを使いたいのか、病気の研究がしたいのか、何か実験を経験したいのかなど、どんなことでもいいので無限の選択肢から自分の興味のベクトルを探るきっかけにして欲しいということがあります。研究についての自分のエゴのようなものを手探りで見つけていく作業は時間がかかりますが、それを意識しながらであれば日々の実験に目標をもって取り組めるのではと思います。

「"具体的に" 何かやりたいことがあるわけではない」というのも普通のことです。サイエンスのおもしろさは日常的に触れることができますし、大学や大学院で初めて当事者として関わろうというとき、やりたいことの幅が広すぎて決められないということもあります。プラクティカルには、必ずしもこれと決められなくても "おおよその当たり" を見定めて、実際の作業を経験してみると良いと思います。その経験を踏まえて、自分の興味がどこにあるのかよりはっきりすると思いますし、研究は常に多くの選択肢があるので、自然と自分の好みの方向に向かっていくと思われます。

でもいずれにしても、漠然とでも良いので自分の内にある「興味・好奇心」を大切にして欲しいと思います。"社会的な重要性の高い" 研究をする必要は、特に初学者のうちは必ずしもありません。「興味・好奇心」は実は非常に個人差が大きいです。だから、あなたがどうしても気になったり解決しcuriosityたいと思っていることがあった場合、その問題を解くのは多分あなたです。これだけ重要だと自分が思うのだから、自分がやらなくても誰かがやるだろうと思って放置したら、誰もやらずに時代だけ過ぎてしまいます。何か自分の中にひっかかっている疑問や解決したい問題があったら、それを大切にして、捨てるのではなく育てて、科学者として成長して科学的に検証できる課題に落とし込んで欲しい。私の知るユニークな研究を展開している研究者の方々はそのような道の先にいるような気がします。

 

初めて英語論文を書く人のために・・

 大学生や大学院生が「初めて」の英語論文を書くときの参考になればと思い、経験に基づき書きます。writing
 「いつ論文を書き始めるか」というのは、例えば何か実験結果が得られたときに、それをフィギュアに整えて、さらに発展させ「論文にしたい」と思ったり、論文のイメージがおぼろげながらも湧いて来たりしたときがその1つでしょうか。または論文の書き方に興味を持つようになるのも1つのタイミングかも知れません。実験がすべて完遂したとき・・を待つ必要はありません。なぜなら英語や科学の地力を引き上げるのに時間がかかるからです。
 実は、論文の出版は独り立ちした研究者にとっても大変な作業です。その作業に初めて挑む学生さんにとって、最初のチャレンジで習得するというより、それをきっかけにして英語や研究の素地づくりをさらに進める動機にして頂けたらと思います。

 整理のため①作法②科学③英語④個性に分けます。③英語のハードルが高いので気づかずに進みがちなのですが、英語以外の部分、特に②科学は致命傷になりやすいです。

 まず①作法ですが、実は投稿規定がジャーナルごとに少しずつ違います。例えば参考文献 (“Reference”) の表記もジャーナルによって異なるのですが、文献整理ソフトを使えばジャーナルに合わせて自動変換されます。投稿規定は個々のジャーナル・サイトで明示されているので投稿時には準拠する必要があります。実際には共通項も多いので気にしないで書き始めて良いです。

 次に②科学ですが、全体または部分の論理展開を決めます。日本語で良いです。フィギュアを並べるとイメージが湧きやすいです。 “Abstract” の下書きをしてみるのもメインテーマを把握するのに役立ちます。詳細は割愛しますが、論理展開の破綻は許されません。本稿では主に英語について記しますが、論理構造は最も大切です。論文を書く作業は論理能力を鍛える最良の機会になります。

 そして③英語ですが、私も含めて多くの日本の研究者は英語との闘いになります。english現在は英文チェックソフトがかなり良くなっているので、それらも使いましょう。基本的にはよく使われるありふれた単語を使い、短い文章で組み立てるのが基本です。しかし最初はどういう単語が良く使われるのかわかりません。それには多くの論文を読んだ積み重ねがものをいいます。 “Reference” ではおよそ50本の論文を並べますが、関連論文は普段から積極的に探して読んで、整理しておくと良いです。
 文献を読んでいると、好きな論文や自分の目標とするイメージ像に近い論文に出会うことがあると思います。そのような論文を「お手本」として位置付けるのも1つの方法です。(ただしコピー&ペーストは、ごく一部であっても剽窃になるので注意してください。) その論文のかもしだすテイストが味わえているということになりますが、④で述べる個性 (書き方) ともつながります。

 研究が完了していない段階でも書きやすいのは “Figure legend” や “Methods” で、このあたりを使って英語で記述する練習を積むと良いと思います。最初は簡単な内容であっても表現が定まらず、重要性に応じて分量を配分できず、論旨がぼやけがちです。ただし、最初は練習の意味が大きいので、結果としてあまり重要でなかった部分に多くを割いてしまっても気にする必要はないと思います。むしろ、余剰な部分を削り始めたら、論文執筆が峠を越えた証拠かも知れません。いずれにしても最初は自分の英語が安定せず、何度でも書き直すのが通常だと思います。

 一生懸命に書いた文章を、指導教官など他の人に見てもらう必要があります。英語を「直す」のは骨が折れるので、読みにくい箇所を指摘してもらうだけでも良しとすべきかも知れません。決してうまくない英語をどっさり渡して直してもらうのは大変なので、 “Results” の1セクションごとに直してもらうと回転が速いかも知れません。(蛇足ですが、私の大学院生時代の恩師は、どんなに忙しくても提出すると1時間以内には直して返して下さる神様のような偉大な方でした。)writing2 英語のwritingを面倒みて下さる方がラボにいなければ共同研究者など他のラボの人に見てもらうこともあり得ます。「ここはこう書いたら良いよ」とお手本の英語に直して下さる方がいると理想的で、そのような人が直してくれた文章を目安にしつつ、全体を直せると建設的です。 

 最後に④個性ですが、「書き方」とも表現できます。研究者の主義・主張やその人らしさの現れる部分です。私自身が勉強中なので多くを述べることはできませんが、“研究論文とは科学的な論証であり、無味乾燥な記述で用をなす”と考えることもできますが、一方で、「研究者の個性がにじみでて良いものでもある」ということです。あるいは、おのずとそうなります。例えば、個性は「論文の簡潔さ」や「流れ」、「データの並べ方」に現れます。また、どのような実験手法を選択し、論文のどこにフォーカスを当てるかにも研究者らしさが出ます。英語表現のしかたも読み手に強い印象を与えます。初めて英語を書く段階では到達目標にする必要はないですが、論文を書くというプロセスが、「その論文を読んだら誰の論文がわかる」こともあるくらい、自己主張の生じることが許される、ということです。

 本稿が少しでもこれから論文を書く人の役に立てばと思います。